フランと牧場の仲間たち

『今日の依頼は、ここでの手伝いだ』

「ん。頑張る」

「オン」

　フランはムンと両手を握って気合を入れ、ウルシはキリッとした表情で渋く吠えた。

　二人からは、やる気がビシビシと放たれているのが分かる。だが、それが不安だった。

『いや、そんな気合入れても、戦闘はないからな？』

「ん？」

「オン？」

『お前ら、やっぱり依頼の内容を理解してなかったな？』

「そんなことない。魔獣をぶっ飛ばす」

「オン！」

『違う！　家畜化した魔獣の世話だっ！』

　依頼人から説明があったはずなんだけど、フランもウルシもうつらうつらしてたからなぁ。「魔獣」「困ってる」「何とかしてほしい」的な感じで、一部の単語だけを覚えて、魔獣討伐依頼だと勘違いしていたのだろう。

「世話？」

『そうだ！　コカトリス、クラッシュボア、エレキシープ。この三種の飼育の補助をする』

　元冒険者の飼育員たちがいるらしいんだが、飲み会で食べた料理に全員が当たってしまったそうだ。症状が重く、ポーションでも完全には治らなかった。

　結果として、数日間だけ家畜化魔物の世話をするという依頼が出されたというわけである。

　正直、面倒な依頼だ。家畜を傷つけたら報酬が減るし、かなり気を使う必要がある。だが、他に引き受ける冒険者がいないということで、受付で泣きつかれてしまったのだ。そして、何の依頼かも分からずに、フランが適当に了承してしまったのだった。

　俺がいなかったら大惨事だったぞ。魔物牧場惨殺事件。消えた家畜たち！　そんな事件が起きることは間違いなかった。

『まずはコカトリスからだ』

「なにする？」

『卵の回収だ。絶対に、コカトリスは傷つけるなよ？』

「わかった」

「オン」

　フランたちに釘を刺しまくりつつ、鶏舎に向かう。

　鶏舎と言っても、当然のことながら日本のシステマチックな物とは全く違っている。

　屋根はかなり大きい。この点だけは、日本の大型鶏舎と似ているだろう。ただ、屋根の下には岩がゴロゴロと転がり、雑草が生え放題の荒れ地が広がっていた。飼われているコカトリスが卵を産みやすい環境を整え、後は自然に任せるやり方らしい。

　俺たちの仕事は、コカトリスからの攻撃を防ぎながら、この中のどこかに産み落とされた卵を探し出すことであった。

『コカトリスの攻撃には石化効果があるから、気を付けるんだぞ？』

「ん。だいじょぶ」

「オン！」

『ストレスを与えすぎると卵を産まなくなるらしいから、絶対にやり返しちゃダメなんだからな！』

「まかせて」

「オン！」

　一方的に攻撃されるって分かってるのに、どうしてこんなにやる気なんだ？　うーむ、不安だぜ。

　そう思っていたんだが、フランとウルシは予想に反してしっかりと仕事をこなしていた。いや、凄く有難いんだけどね？

　どうやら、草むらから突如現れるコカトリスを察知し、攻撃を躱すことが楽しいらしい。ゲーム感覚なんだろう。最初は余裕をもって回避していたんだが、段々と引きつけるようになってきた。ギリギリのスリルを楽しんでいるようだった。危険な遊びだぜ。

「コッケェェ！」

「よっ！」

「ココココ！」

「オフー」

　挑発してまで、コカトリスに攻撃させている。石化能力を持つ相手によくやるよ。治す手段があるとはいえ、普通ならもっと恐ろしい相手のはずなのだ。

　とりあえず、囮としては及第点だ。コカトリスどもがフランたちに気を取られている間に、卵を回収してしまおう。ここのは無精卵なので、次元収納にしまえるからな。

　そうして一時間ほどコカトリスたちと戯れ、俺たちは卵の回収を終えていた。

「楽しかった」

「オン！」

『そ、そうか』

「次も楽しみ」

「オンオン！」

　フランたちは笑っているけど、次も一筋縄じゃいかないんだよな。

『次の相手は、クラッシュボアだ。以前に戦ったことがあるだろ？』

「おっきいイノシシ」

『そうだ』

　クラッシュボアは、クランゼル王国全域に生息する猪型の魔獣である。

　成獣になると軽トラくらいの大きさになり、初心者冒険者の壁とも言われる相手だった。

　特殊能力はないものの、突進攻撃が高威力なのだ。

　ただ、その性質は普通の猪と同じで、一度走り出すと中々止まれない猪突猛進タイプである。上手く罠を張れば、美味しい獲物でもあった。

『だが、今回はその手は使えない』

「そうなの？」

『今回の依頼は、怪我をさせちゃいけないからな。それに、倒すんじゃなくて、クラッシュボアの運動不足解消が目的だ』

　クラッシュボアの肉質を良くするため、出荷までは適度に運動させなくてはならない。だが、敵がおらず、勝手に餌が出てくる環境では走ることはおろか、動くことすら稀であるらしい。

　そこで、冒険者がクラッシュボアを挑発し、敵役となって運動させるという訳だった。

『クラッシュボアは成獣ではないらしいが、その分小回りが利くからな？』

「どんとこい」

「オン！」

　コカトリス回避ゲームが面白かったせいで、こっちも楽しみであるらしい。

　クラッシュボアが飼育されている猪舎へと向かう。建物は意外に小さいが、その裏には広大なグラウンドが存在していた。

　中央部分に草がほとんど生えていないのは、クラッシュボアに踏み固められているからだろう。

　それどころか、グラウンドが中央部分に向かって傾斜している。クラッシュボアの蹄によって地面が削られ、すり鉢状になってしまっているのだ。それだけパワーが凄まじいってことだろう。

『それじゃあ、クラッシュボアを部屋から出すか』

「ん。わかった」

　クラッシュボアは危険な魔物であるため、一匹ずつグラウンドへと誘き出し、疲れたところを餌で寝床へと戻すらしい。猪舎の入り口は、結界の魔道具で瞬時に閉じることが可能なので、それを上手く使って群れを分断するのが本来の手順だったんだが……。

「でてくる！」

「オンオン！」

　フランとウルシが結界の魔道具を操作して、一気に消し去ってしまっていた。本来は、一部だけ解除するのが正解なんだが……。

『ちょ、一気に全頭出てきちゃったじゃん！』

「ん？」

「オン？」

『首傾げてる場合じゃないから！　ロックオンされたぞ！』

「ブルルルル！」

　ここのクラッシュボアは成獣ではないとはいえ、ミニバンくらいはありそうだ。十分にでかいし、重い。そんな巨大猪が二〇匹。鼻息も荒くフランたちを睨んでいた。

　だが、凶悪過ぎる相手に対し、フランたちは怯えるどころか楽し気に微笑んでいる。

「やる！」

「ガル！」

『おい！　反撃しちゃだめだからな！』

　俺を構えたフランに対し、再び釘を刺す。いい加減、言い過ぎだって？　いや、そんなことはない。

「おっと、そうだった」

「オフー」

　危ねぇ。クラッシュボアの戦意を感じ取って、完全に戦闘モードだった。殺る気満々だったのだ。

　ほらね！　絶対に忘れちゃうと思ってたよ！

「ブウルオオォォォォォ！」

『くるぞ！』

　そうして、フランたちとクラッシュボアの鬼ごっこが始まった。

　まるでピンボールの球が無数に行き交っているかのように、すり鉢状のグラウンドを縦横無尽に走り回る猪たち。

　広いはずのグラウンドも、大きな猪が二〇匹も走り回っていると非常に窮屈に感じる。

　だが、フランたちは笑いながら、猪相手に立ち回っていた。

「ブルオオォォ！」

「ほっ」

「ブラァァァァ！」

「オフー！」

　どうやら、空中跳躍や転移を使わないルールらしい。

　意識的にスキルを使わず、体捌きだけでクラッシュボアの攻撃を回避し続けていた。

　攻撃が当たらないことで、クラッシュボアが段々とイライラしてきたのが分かる。すると、連携してフランたちを追いこみ始めた。絶対に攻撃を当ててやるという、魔獣の維持が感じられた。

　波状攻撃が、フランたちに襲い掛かる。

　しかし、それもフランとウルシを捉えることはできなかった。フランの華麗な動きの前には、魔獣といえどただのデカい猪でしかなかったのだ。余りにもクラッシュボアが悔し気に唸るもんで、途中からちょっと応援しちゃったぜ。

　結局、クラッシュボアが疲労困憊で動けなくなるまで、一発も攻撃が当たることはなかった。ていうか、やり過ぎた？　適度に運動させるっていう依頼だったのだが……。

「ブヒィ……ブヒィ……」

　クラッシュボアたちはへたり込んで、動けずにいる。事前に教えられていた通り、餌で猪舎へ誘導しようとしたんだが、マジで動くことができないらしい。

　最後は、俺の念動で持ち上げて、なんとかクラッシュボアを寝床に戻したのであった。

「ちょっと失敗した」

「オン」

『つ、次は俺の言うことを聞こうな？』

「わかった！」

『返事はいいんだよな』

　まあ、フランたちは次に向けて気合を入れ直したけど、次はメチャクチャ簡単だけどね。

「エレキシープって、あれ？」

『そうだ。あそこの原っぱにいる白い毛玉が、エレキシープだ』

「あれをどうするの？」

『捕まえて、屋根の下の柵の中に戻すだけだな。ああ、ウルシは難しいから、今回は見学だぞ』

「オフ」

「師匠、移動するだけ？」

『それだけだ』

「……わかった」

　フランがあからさまにがっかりしたのが分かった。肩を落としながらエレキシープに近寄り、手を伸ばす。すると、エレキシープが一瞬だけ光った。フランが警戒した様子で、手を止める。

「……？」

『まあ、フランには意味ないから、無視していいぞ』

「わかった」

　俺の言葉に頷いたフランは、バランスボールほどのサイズの白い毛玉に両手を突っ込むと、むんずと掴んでそのまま抱き上げた。相変わらず毛玉は光ったままだが、フランには異常が見られない。

「これ、なに？」

『こいつらはなぁ。電気を放つ羊なんだ。ただ、フランは雷鳴耐性を持ってるから』

　フランに対しては何の意味がないのだ。

　電気による防御に頼りっきりで、エレキシープは身体能力が低い。つまり、フランにとっては、ただの毛玉でしかなかった。

　普通なら、雷鳴耐性のある重い全身スーツを装備して、汗だくになりながらする作業らしい。それをフランは僅か五分ほどで終えてしまっていた。波乱もなく、本当に簡単な作業だったね。

「終わり？」

『ああ。そうだぞ』

「……もう一度鶏のところもどる」

「オン！」

『待て待て！　コカトリスがかわいそうだから！　というか、ストレス与えすぎよくない！』

「……どうしても？」

「オン？」

『ダメ！』

「じゃあ、この後狩りにいく」

『べ、別にいいけど。疲れてないか？』

「ない！」

「オン！」

　本来なら、数人の冒険者たちが命懸けでこなすはずの依頼だったのだが……。フランとウルシにとっては、温い作業でしかなかったらしい。

　むしろ、最後のエレキシープではストレスが溜まってしまったのだろう。

　この後、ストレス発散のはけ口にされる魔獣さん。今から謝っとくな？　ごめんなさい。

「じゃあ、早く行く！」

「オンオン！」

『分かったから、走るなって！』